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テキサス州沖フラワーガーデン・バンク米国海洋保護区内の稼働を停止したガス・プラットフォーム。Photo : Jesse Cancelmo
テキサス州沖フラワーガーデン・バンク米国海洋保護区内の稼働を停止したガス・プラットフォーム。Photo : Jesse Cancelmo

サンゴが増えれば、魚も増える

By エセニア・フネス   |   2021/09/03 2021年9月3日

メキシコ湾の大陸棚が水深180メートルに沈み込む手前のあたりで、人間の脳の模様に似た黄色いサンゴの上をマンタが滑るように泳いでいる。テキサス州ガルベストンの海岸沖約160キロメートルにあるこの万華鏡のような生態系は、20種類以上のサンゴが生息している。ここフラワーガーデン・バンク米国海洋保護区では、岩礁を蛍光色のオレンジやブルーの海綿動物が彩り、その下にはグリーンモレイが隠れていたりする。エビ、カニ、ヒトデがくつろぎ、風景に鮮やかさを添えている。

フラワーガーデン・バンクは1992年に、米国で10番目の国立海洋保護区に指定され、支援者によって初めて候補に選ばれてから13年後のことだった。全米野生生物連盟の野生生物政策の上級スペシャリスト、ジェシカ・ビブザによると、この岩礁は野生生物のメッカだ。そのため、2021年に米国海洋大気庁(NOAA)は、この保護海域を145平方キロメートルから約3倍の415平方キロメートルへ拡大した。

だが、湾内の生態系や生息環境は、連邦政府によるさらなる保護を必要としており、この海域一帯は危機にさらされている。その筆頭が気候変動であり、海水温度の上昇、海洋酸性化、異常気象など、まさに諸悪の根源だ。次に化石燃料産業。この湾は米国の原油産出の17%を占める。地元の水産業の経済は数十万もの雇用をメキシコ湾の健全性に依存している。今回のフラワーガーデン・バンクの拡大は、確かに新たな保護手段にはなるが、メキシコ湾が生き残るためには、さらなるの保護活動が必要だ。

ステットソン・バンクで岩陰に隠れるハタ。テキサス州からルイジアナ州にまたがるこの保護区には17か所の礁や堆があり、ここもその1つである。Photo : Jesse Cancelmo
ステットソン・バンクで岩陰に隠れるハタ。テキサス州からルイジアナ州にまたがるこの保護区には17か所の礁や堆があり、ここもその1つである。Photo : Jesse Cancelmo
小さいレッド・ナイト・シュリンプの大群は、フラワーガーデン・バンクのナイトダイビングでよく見られる光景。Photo : Jesse Cancelmo
小さいレッド・ナイト・シュリンプの大群は、フラワーガーデン・バンクのナイトダイビングでよく見られる光景。Photo : Jesse Cancelmo
ステットソン・バンクの巨大なエダサンゴの上でホバリングするクレオールフィッシュの群れ。Photo : Jesse Cancelmo
ステットソン・バンクの巨大なエダサンゴの上でホバリングするクレオールフィッシュの群れ。Photo : Jesse Cancelmo

海洋生物学者のラリー・マッキニーが、初めてこのサンゴ礁を探検したのは1970年代の学生時代だ。それ以来、キャリアのほとんどをメキシコ湾の研究と保護に捧げ、10年以上この保護区の諮問委員会に参加している。23歳の時、マッキニーは大学の調査船で夜通し6~8時間かけて航海し、このサンゴ礁を訪れた。

「海の上からさえ、すべての色が見えるのです。『フラワーガーデン』という名前の由来を心から理解できた」

マッキニーは、もっと近くで見ようと、フィンやシュノーケルを急いで身に付け、水中に潜り辺り一面を一気に見渡して、その光景を目に焼き付けたことを覚えている。数千もの小さくてカラフルな点々がマッキニーに向かって泳いできた。オレンジ色のクレオールフィッシュ、鮮やかなブルーヘッドベラ、さまざまな種類のスズメダイ。

「あんな光景はそれまで見たことがなかった」

マッキニーによるとフラワーガーデン・バンクは、米国内に15ある海洋保護区のうち、この地域で唯一のものである。メキシコ湾には海底から最大15メートルの高さに達する堆が200近くあり、フラワーガーデン・バンクは湾内の広大な岩礁生態系の一部に過ぎない。この保護区の北東にあるデソト・キャニオンは、最近発見されたライスクジラが好んで泳ぐ海域で、体重30トン、体長約13メートルのこのヒゲクジラの新種は、生息数が100頭にも満たない、世界で最も危機に瀕している種である。

2016年、当初NOAAは保護指定区域を約1,000平方キロメートルまで拡大することを提案していたが、公聴会の席で石油・ガス業界の代表者は、そのような規模に拡大すれば沖合のエネルギー探査にマイナス影響があると異を唱えた。こうしてこれらのサンゴ礁は、忍びよる汚染者の脅威にさらされることになった。1942年以降、約6,000基の石油・ガス構造物がメキシコ湾に設置されており、そのうち3,200基以上が現在も稼働している。つまり、流出や漏出の危険と常に隣り合わせだ。

アカシュモクザメ。ステットソン・バンクの北側ドロップオフ付近。Photo : Jesse Cancelmo
アカシュモクザメ。ステットソン・バンクの北側ドロップオフ付近。Photo : Jesse Cancelmo
ステットソン・バンクには7種類のウツボがいる。その1つゴールデンテールモレイ。Photo : Jesse Cancelmo
ステットソン・バンクには7種類のウツボがいる。その1つゴールデンテールモレイ。Photo : Jesse Cancelmo

「フラワーガーデン・バンクで保護されているのは、ほんの一画です」とマッキニーは言った。

保護区を拡大すれば、石油・ガスの利権を締め出せるし、船舶が重いイカリを下ろすことを禁止できる。さらにフラワーガーデン・バンクを訪れるすべての人々に対し、海洋哺乳類やウミガメを邪魔することや住処から追い出すことを禁止できる。釣り人は、米国のフィッシング規定内の釣り針と糸を使用するのであれば、まあいいだろう(ただし、モリの使用は禁止!)。実際、釣り人もフラワーガーデン・バンクの諮問委員会に参加し、この保護区の拡大を支持している。2名は遊漁の、さらに2名は漁業の代表者だ。これらの人々はサンゴの経済的価値を知っている。世界では実に5億人もの人々が、日常の糧をサンゴに依存している。

「サンゴが増えれば、魚も増えるんだ」

諮問委員会の現会長であり、夏季に数回はこの岩礁を訪れる船長のスコット・ヒックマンは言った。

「魚を捕まえるの好きだろ?魚を食べるのも好きだろ?ならサンゴを大事にしなきゃいけないよ。サンゴ礁もね。この2つは二人三脚なのだ」

1980年代中頃、この岩礁を初めて見た時、ヒックマンは石油掘削施設の近さに驚いた。「この2つが共存しているなんて、バカげてる」と思った。ヒックマンがサンゴの保護に注目し始めたのは2010年からだ。その年にBP社の石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」が400万バレルの原油をメキシコ湾に流出させる事故が起きた。ヒックマンはこの同居がどれほど危ういものであるかを認識した。当時、ヒックマンは小型プロペラ機で上空を飛行する希少な機会を得た。そして現実に打ちのめされた。

「おおっ、これじゃライフスタイルが完全に変わっちまうかもしれない。どうやって生計を立てればいい。どうやって子どもたちを海で遊ばせればいい」

黒いベトベトが海面を覆っているのを見て、そう思ったと回想する。

しかし彼の所説によると、サンゴにとって最大の脅威は原油流出ではなく、気候変動だと言う。

石油産業がこの湾から炭化水素を抽出し、精製し、販売した結果として排出される温室効果ガスの総量が、この地球を温めている。温められた海水により、サンゴの養分を生成してくれる共生関係の藻類が抜け出してしまい大規模な白化現象を引き起こし、そしてサンゴは、死に至る。サンゴ礁を形成するサンゴの約33%が、水温上昇によるリスクにさらされている。気候変動にサンゴを明け渡せば、米国は歳入の34億ドルを失うことになる。

海洋生物学者は東部フラワーガーデン・バンクでサンゴの健康状態を調査する。Photo : Jesse Cancelmo
海洋生物学者は東部フラワーガーデン・バンクでサンゴの健康状態を調査する。Photo : Jesse Cancelmo

その影響はすでにフラワーガーデン・バンクで起きている。2017年のハリケーン・ハービーは、気候変動によって威力を増したことが科学者によって確認されているが、その後、マッキニーはサンゴ礁が白くなったことに気付いたという。幽霊のように白くなったサンゴを見たのは初めてだった。この記録的な嵐は、推定56兆リットルの雨を東部テキサスに降らせた。雨水、下水やゴミの汚れ、すべてが海に流れ込み、サンゴを窒息させ、汚染した。2021年4月に発表された調査で、その関連性が確認されたが、これらのサンゴ礁が海岸から遠く離れていることを考えると、予想外のことだった。

「これは前兆だ」この保護区を担当するNOAAの監督官、G.P.シュマールは言った。

この国のリーダーが気候危機の深刻さや海洋生息環境の危うさを無視し続けていればこの先どうなるか、私たちは警告されている。「保護区の観点から(気候変動を)制御することはできない」とシュマールは言う。
「これは文明社会として我々が対処しなければならないはるかに大きな問題だが、一定の直接的影響を制御することは可能だ」

それがこれら海洋保護区の価値だ。保護区は、生態系を産業界から守る役割を果たしている。だから私たちはもっと行動を起こさなければならない。ジョー・バイデン大統領の気候変動対策には、野生生物と炭素吸収源を保全するために、2030年までに国土と海域の30%を保護することが盛り込まれているが、詳細はまだ明らかになっていない。

5月に公開された24ページからなる報告書は、伐木や放牧も保護活動の一環であると説明している。「こうした保護政策をどこに適用するかについて、バイデン政権が戦略的になれるかが重要」と自然保護団体「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」の南東部海洋保護ディレクターのメアリー・コンリーは言った。米国の保護海域は、ほぼすべてが太平洋だが、それ以外の海域(例えばメキシコ湾)も、特定地域に指定するだけの価値はある。

「代表的エリアを検討する必要があります」とコンリーは言った。「私たちはすべての保護区をサンゴ礁にしたいわけではありません。保護区はサンゴ礁のほか、重要な汽水域の生息地、海草、カキ礁、重要な砂地など、様々な生息域があることが大切です」

彼女は正しい。すべてはつながっているのだ。8月頃フラワーガーデン・バンクを訪れてみて欲しい。年1回のサンゴの産卵を見ることができる。サンゴが何千もの卵を放出し、海中に「吹雪」が舞う。ルビー色の繊細なヒトデからジンベエザメにいたるまで、夜行性の捕食者が、ありつけるかぎりの卵を食べようとする。サンゴの卵の多くは、はじき出されて、漂流する。おそらく海中のガス・パイプラインの横も通り過ぎるだろう。その中には2021年7月に海上火災を起こしたものもあるかもしれない。卵はやがてメキシコ湾のどこかに漂着し、そして運が良ければ、そこで新たなサンゴの群体を形成し始める。

メキシコ湾には、危険な石油・ガス掘削施設があり、そして壊れやすい驚異の生態系がある。その共存はいつまでも続くわけではなく、いずれは一方が他方に取って代わるだろう。

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