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ニセコバックカントリーにて、極上の新雪にターンを刻む至福のひととき。 Photo : Rip Zinger
ニセコバックカントリーにて、極上の新雪にターンを刻む至福のひととき。 Photo : Rip Zinger

未来に向かって滑り続ける

By 丸山 春菜   |   2020/12/24 2020年12月24日

はじめてスノーボードと出会ったのは16歳の時。自由になれる感覚や開放感に取りつかれ、それ以来ずっと頭の中は滑ることばかり。私にとって雪山は、自分に還ることのできる居場所のようなもの。雪を巡り、これまで数えきれないほど旅を繰り返し、スノーボードの多種多様なスタイルや文化に触れる中で、私のスノーボーディングを大きく変えたのは「スノーサーフ」との出会いでした。美しくシェイプされたボードに乗り、静かな山の中を滑っていると、自然と調和する瞬間を感じ、「ターン」から得られる純粋な喜びが、いつも私の心をワクワクさせてくれる。スノーボードを通じて、女性が自信を持って自分らしく生きることの価値を、1人でも多くの人とシェアすることに情熱を注ぎ、活動を続けています。

2008年には、同じパタゴニア スノー・アンバサダーであり夫の丸山 隼人と共に長野県信濃町に移り住み、雪国での暮らしをはじめました。ここは、365度山々に囲まれ、美味しい野菜や果実が育ち、透き通る湖や川、じつはすぐ近くに日本海も存在します。1年を通して遊びが尽きない豊かな環境が広がり、自然のリズムに合わせ、その時どきの「旬」を追いかける日々は、私たちの価値観をシンプルにし、心も体も常にいい状態でいる方法を教えてくれます。

息子の誕生によりスノーボードとの向き合い方に変化が訪れる。 Photo : Rieko Sato
息子の誕生によりスノーボードとの向き合い方に変化が訪れる。 Photo : Rieko Sato

ずっとスノーボードだけに向き合い、夢中で駆け抜けてきた17年間。そんな時間を大きく変える出来事が訪れました。2019年1月、息子のケイトが誕生。ケイトとの新しい生活がはじまり、窓の外にしんしんと降り積もる雪を眺めながら、育児に奮闘する初めての冬を過ごす。生後2ヶ月が経った頃、思い切って息子を夫に託し、急ぎ足で一番近くのゲレンデへ滑りに出かけた日のこと。相変わらず美しい田舎の雪景色にうっとりするものの、小さな息子のことが頭から離れず、心配で落ち着かない自分に母親になったことを実感しました。

しばらくの間、フィールドから離れなくてはいけないことを覚悟していた私は、ボードに乗りターンを始めたその瞬間に、様々な感情が溢れ、涙がこぼれました。また雪の上に戻ってこれたこと、スノーボードが自分にとって何ひとつ変わらない存在であることに大きな安堵感を抱きました。スノーボーダーとして道半ば、やりたいことを多く残したまま「母親」になることへの葛藤、育児と仕事を両立することへの不安を感じていたのも事実。これからはその道の続きを、家族一緒に歩んでいくことを希望に変えてくれた、たった数本のクルージングに今でも感謝しています。

一日のうちのたった一本でもボードに乗りターンを描く。自分に立ち返る瞬間。 Photo : Jon Tapper
一日のうちのたった一本でもボードに乗りターンを描く。自分に立ち返る瞬間。 Photo : Jon Tapper

こうしてはじまった私たち家族の新しいライフスタイル。夫と交代で滑りに出かけ、朝一のパウダーやグルーミングはお互いに譲り合う。晴れた日は息子を背負って滑り、午後はソリに乗って雪遊び。手探りながらも、そんな時間が少しずつ日常になりました。

もちろんこれまでとは滑りに費やす時間も自由に旅する機会も減ったけれど、心はいつも充実しています。季節が変わっても、波があればサーフボードを積んで海へ出かけ、波が穏やかな日はSUPで湖に浮かび、森の中を散歩して、畑でひと仕事。天気図を眺め一喜一憂する生活は変わらず、できるだけ多くを自然の中で過ごすことが、私にとって親子の心を深くつなげてくれる大切な時間だと感じています。

1歳になる息子を抱えてのスノーセッション。手探りながらも日々新しいライフスタイルを探求している。 Photo : Alex Yoder
1歳になる息子を抱えてのスノーセッション。手探りながらも日々新しいライフスタイルを探求している。 Photo : Alex Yoder

キラキラと目を輝かせ、日々成長していく息子の姿を見ていると今ある環境へ感謝の気持ちが湧いてくるとともに、これから子供たちが生きていく未来のことを今まで以上に深く考えるようになりました。それは子供を持つ母親として、とても自然な感情です。この数年だけでも自然災害によって多くの生命や暮らしが失われていく現実に何度も、胸を痛めた。そして今、気温の上昇により、雪山では降雪量や積雪量が確実に減っている深刻な現状があります。実際に、記録的な暖冬に悩まされた昨シーズン。いつも以上に危機感を感じる冬を過ごし、この先もしも雪が降らなくなってしまったら…。それは想像もしたくない未来でした。

土に触れ、育てた野菜を食することも日々の楽しみのひとつ。
土に触れ、育てた野菜を食することも日々の楽しみのひとつ。

そして2019年11月に 私たちが運営するSLOPE PLANNING の「1% for the Planet」加盟を決意。それは、私たちが主催するスノーボード・ライディングセッションの年間売上の1%を草の根環境団体に寄付をするということ。多くの滑り手と雪上で過ごすファンな時間が、冬を守るひとつのアクションにつながればと思ったのがはじまりで、私たちの1%はわずかなものかもしれないけれど、それが集まれば大きな力になるはず。そう信じて、踏み出した一歩でした。

その春には、参加費の全てを “Protect Our Winters Japan”へ寄付をすることを目的としたチャリティーセッション「Ride For Future」を開催。心ゆくまで滑りを楽しみ、リフトの上では、気候変動をテーマに会話が弾む。純粋に「楽しむ」それだけで私たちは、心をひとつにすることができます。そのポジティブなエネルギーが、知ることや語り合うことを醸成し、一人一人が行動を起こすきっかけとなります。そして、自分たちが直接声を上げることで共感を呼び、手を取り合うことができる賛同者が増えていきました。行動を起こすことの大切さを改めて、私自身が学ばせてもらう機会になりました。

チャリティーセッション「Ride For Future」を開催。今にも土が出てしまいそうなほどわずかに雪が残るゲレンデで、最後まで思いっきり滑りを楽しみ、リフトの上では、気候変動をテーマに会話が弾んだ。
チャリティーセッション「Ride For Future」を開催。今にも土が出てしまいそうなほどわずかに雪が残るゲレンデで、最後まで思いっきり滑りを楽しみ、リフトの上では、気候変動をテーマに会話が弾んだ。

そして今、毎日の生活の中にも自分にできることを探しながら、環境に優しいライフスタイルを心がけて、ゆっくりとその暮らしを楽しんでいます。自分にとっての幸せや本当に大切なものがはっきりすると、毎日がよりシンプルに豊かになっていくことを実感します。楽しみながらできることをひとつずつ、どんなに小さなことでも一歩前に進むこと。その意識がきっとより良い未来を作り、持続させていくコツなのかもしれません。

どんなに生活環境や世の中が変わろうと、いつだって変わらずにただそのままの姿で存在する山や海。私の心にはいつもスノーボードがあり、状況は変わっていきながらも滑り続けていられること、背中を押してくれる家族の存在にとても感謝しています。どんなことが起こっても前向きでいられるのも、全ては美しい自然のおかげ。生きていく上で大切なことのほとんどをスノーボードから教わりました。自然の中に入り、その恩恵を感じて、この地球上に「生かされている」という感覚を持つことができれば、自分がどう行動すべきか自ずと答えは見えてくるのだと信じています。大切なものは誰だって守りたいと思うもの。だからこれからも、スノーボードの魅力を伝えていきたいし、雪山が与えてくれる大きな喜びを子供たちにもつなげていきたい。

何年先もずっと家族や仲間と雪の上で笑い合うために「Ride For Future」その想いを原動力に、未来へ向かって、これからも滑り続け、声を上げていこうと思います。

未来に向かって滑り続ける

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