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バックパックを再考するパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードと、当時の縫製担当だったヴァル・フランコ。1974 年 Photo : Gary Regester
バックパックを再考するパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードと、当時の縫製担当だったヴァル・フランコ。1974 年 Photo : Gary Regester

フリースの話

By レイチェル・G・ホーン   |   2020/10/14 2020年10月14日

いじくりまわすことの物語

カリフォルニア州ベンチュラにあるパタゴニア本社の近くには、パタゴニアの約50年にわたる歴史を集めた「ジ・アーカイブ」と呼ばれる建物があります。仕切りのないオフィスのフロアには色とりどりの古いウェアを掛けたラックが並び、昔のパンフレットやポスターが壁に貼られ、手で書き留めたりタイプライターで打ったりしたメモでいっぱいの、アイデアと歴史の詰まった箱がいくつも置かれています。フリースのセーターを象った合板には、「いじくりまわすのをやめるもんか」という手書きの文字が、まるで問題児が黒板に殴り書きしたように、油性のペンで何度も繰りかえし書かれています。世界初のフリースの誕生は、この独創的な混沌といじくりまわすことの価値に対する信念によるものでした。「ジ・アーカイブ」の入り口の壁に掛けられたその最初のフリースは、すべてのはじまりとなった素朴な遺物です。

海沿いのオアシス「タルラーズ・ビーチ・カフェ」へようこそ。オーナーシェフのタルラー・ソマーが提供する今日の特別メニューは、砂と貝殻の盛り合わせ。カリフォルニア州北部 Photo:Amy Kumler
海沿いのオアシス「タルラーズ・ビーチ・カフェ」へようこそ。オーナーシェフのタルラー・ソマーが提供する今日の特別メニューは、砂と貝殻の盛り合わせ。カリフォルニア州北部 Photo:Amy Kumler

起源
フリース誕生の物語は、イヴォン・シュイナードが愛用していたウールのセーターからはじまります。丈夫で温かいセーターは防寒用のレイヤーとして好んで使われましたが、濡れると重くなり、乾きにくく、洗濯も容易ではありませんでした。そこでイヴォンはウールと同等の保温性と耐久性を備えながら軽量ですばやく乾く、化繊という奇跡の素材を探しはじめました。1970年代初期、イヴォンはカナダの布地販売店でアクリルのパイル生地を見つけました。見た目も匂いも悪い生地でしたが、水を嫌うという点で将来性がありました。この発見をきっかけに、マリンダ・シュイナードはロサンゼルスのファッション地区に出向いて似たような生地を探しました。彼女がそこで持ち帰ったのは、便座カバーに使われるポリエステル製の生地でした。セーターになる可能性を見出したからです。そのひと巻きの生地はそれまでに収集された他のサンプルとともにしばらく眠っていましたが、ある日イヴォンによって再発見され、裁縫室に持っていかれました。

現在「ジ・アーカイブ」のマネジャーとしてパタゴニアの歴史の番人を務めるヴァル・フランコは、当時は縫製を担当していました。イヴォンは彼女の肩越しに立つと、頭のなかに描いていたデザインを伝えました。やがて初のフリース・セーターの原型となったこの試作品は、お世辞でも「くすんだ青っぽい」としか言えない、簡素なフロントジッパーがあるだけで、ポケットも付いていないもので、たった1度の洗濯で外側に毛玉ができました。しかしそれはウールと同じ、またはそれをしのぐウェアになる可能性がありました。ウールよりも格段に軽く、水に入れても吸収するのは重量の1パーセント以下で、洗濯機で洗え、物干し用のロープに吊るしても野外でもすばやく乾きました。その後パタゴニアはマサチューセッツに拠点をおく素材メーカー、モルデン・ミルズ(現在のポーラテック)社と提携して、最初の軽量で丈夫なポリエステル製パイル素材を開発し、その生地から真の意味で最初のフリース・セーターを作りました。世界は、それからあっという間に、フリースに心を奪われました。

進化
まもなくどこの布地販売店にもフリース生地が並ぶようになり、あらゆるアウトドア製品ブランドがこの人気の新素材を使って、製品を作りはじめました。それはウールの長所をすべて備え、洗濯が容易で、事実上どんなウェアの上にも下にも重ね着できました。しかしときに人生では、問題を解決しようとすると、うかつにも新しい問題を生み出してしまうことがあります。「イヴォンのお気に入りのウールのセーターの問題点を解決するために、私たちは新製品を、バージン・ポリエステルで開発してしまったのです。化繊の原料は化石燃料です」と語るのは、パタゴニアでグローバル・スポーツウェア部門の副社長を務めるヘレナ・バーバー。

「それで、私たちはまたもや振り出しに戻りました」私たちはポリエステルを含む石油由来の繊維が環境に与える影響を綿密に調べました。それは当時パタゴニアのフリース製品の大半に使われていました。そして提携紡績工場と協力してリサイクル・ポリエステルの仕入先を探し、ついに1993年パタゴニアは廃棄物をフリースに変える初のアウトドア衣料品メーカーとなりました。当時はまだ技術に限界があり、最初のリサイクル・ポリエステル・フリースは原料であるペットボトルの緑色でした。

Photo: Tim Davis
Photo: Tim Davis

いじくりまわしつづける現在
フリース素材のフットプリントの削減方法を探す次の段階は、天然繊維を組み込むことでした。そして保温性と耐久性を備えた最愛の素材であるウールにふたたび目を向けました。具体的にはリサイクル・ウールに、です。「ウールにはつねに魅力的な憧れと伝統があります。本当に完璧な天然繊維なのです」とヘレナは言います。「愛すべきフリース素材にウールを混紡するという決断は、ある意味で出発点に戻った感じですが、まったくそういうわけでもありません。両方の利点を組み合わせるということです」リサイクル・ウールとフリースを混紡することで、私たちはバージン・ポリエステルを使用するよりも炭素排出量を削減できます。またかなりの量の衣類が埋立地行きとなることも防ぎます。

ウールは世界で最も古い工程を用いてリサイクルされています。パタゴニアのパートナーであるカラマイ社はイタリアのプラートで家族経営をつづけ、1600年代に使われていた方法に近い工程を、現在も使用しています。山積みの衣類は手作業で裁断され、同系色にまとめられてから、やがて糸になります。パタゴニアの最初のリサイクル・フリースが仕分けされたペットボトルの緑色だったように、ウールはもとの衣類の色とその混合により、分類の段階で色調が決まります。

Photo: Tim Davis
Photo: Tim Davis

未来
パタゴニアでは考えが尽きることはありません。いじくりまわすことは限りなく奨励されます。「それがパタゴニアというブランドの特徴です。『現状維持』という因襲に挑戦するのです。自分自身の行いでさえも」と言うのは、素材開発チームのニコラス・ハートリー。

「不快なときも、悪夢のようなときもあります。でもそれはやらねばならないことなのです。進化し、変化しつづけるために。それはまさに、私たちがどういう人間であるか、です」このいじくりまわすという欲求を満たすため、製品チームは2018年のはじめに「フリースラボ」を開設しました。これはデザインチームと素材チームが新たなコンセプトを探究し、フリースが環境に与える影響の削減方法を研究するためのインキュベーションプログラムです。共同研究と実験を介して、リサイクル化繊とリサイクル・ウールなどの天然素材の混紡を使った、限定新製品を発表します。パタゴニアの素材開発者たちは、紡績工場に行き、問題を伝え、解決策を練り出すことを依頼し、可能性のある新たな素材構造に関する一連の構想を持ち帰ります。そしてデザイナーが繊維の究極の混紡を決め、工場が素材の製造に着手するのです。

こうして特注の繊維と生地から作られたウェアのコレクションは、パタゴニア製品の通常のシーズンとは別の時期に発売されます。「紡績工場と協力して開発した素材の大半は、他のブランドも同工場から買うことができます。私たちはそのことに満足しています」と、ニコラスは説明します。「なぜなら、私たちの目標はフリースを変えることだからです。パタゴニア製品に限らず、すべてのフリースをより良いものにしたいからです」私たちはこうした新素材が環境と、それを着る人びとの生活に最大の好影響をもたらすべきだと考えています。

「パタゴニアの責任は人びとを正しい方向に導くこと。アパレル業界にはあまりにも多くの汚点があり、私たちはその水準を上げる努力をつづけなければなりません。私たちは汚点を破滅させ、ともに取り組むよう他社を奨励し、それは現状はうまくいっているようです」とヘレナは言います。「けれども完璧なフリースというのは、『このフリースを買わない』ことであり、どうしても買う必要がある場合には廃棄物から作ったものを選ぶ、というのがいまのところです」

完璧なフリース──私たちはまだそれを作っていません。私たちはまだ、いじくりまわしつづけています。

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