辺野古・大浦湾のアオサンゴ群集。写真:牧志治
辺野古・大浦湾のアオサンゴ群集。写真:牧志治

希望の海で保護の網をかける:辺野古・大浦湾、日本初の「ホープスポット」認定

By 安部 真理子   |   2020/04/07 2020年4月7日

日本にジュゴンが棲んでいることをご存知だろうか。海に棲む大型の哺乳類で、体長2.5~3メートル、体重250~400キロほどになる。インド洋から南太平洋の熱帯・亜熱帯の浅い海に暮らしている、現生するジュゴン属ジュゴン科の唯一の種だ。日本のジュゴンが暮らすのは、南北に長い日本の南の方にある南西諸島。世界的にはここはジュゴンの生息地の北限にあたる。ジュゴンは、海草(うみくさ)と呼ばれる、海の中に生える草しか食べられない。よく光があたり、波が穏やかで、砂地が必要なウミクサは、沿岸域の環境破壊により減少している。

ジュゴンは世界中で減少傾向にあり、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで危急種VU(Valunerable)に記載されている。ただし、日本の地域個体群は2019年にさらに2つ高いランクのCR(Critically Endangered)と評価された。このランクの次は絶滅。絶滅一歩手前という状況だ。そしてさらに、日本に棲むジュゴンの保全状況には懸念がある。

そうしたなか、2019年10月、沖縄県名護市の辺野古・大浦湾一帯が日本初の「ホープスポット」に認定された。ホープスポットとは、有名な海洋学者のシルヴィア・アール博士が立ち上げたプロジェクト、ミッションブルーが設定する海洋保護区のこと。ミッションブルーは世界の重要な海に次々と「保護の網」をかけている。この海が世界的に重要な海域の一つに認定されたことは、地域の人たちにとって希望あふれるニュースとなった。

ホープスポットの申請にまい進するきっかけとなったのは、2018年3月に沖縄県と日本自然保護協会が那覇で開催された「辺野古・大浦湾シンポジウム」だった。シンポジウムでは、翁長雄志前沖縄県知事(故人)の挨拶があり、大浦湾の科学的な希少性について国内外の専門家から講演が行われた。私は話題提供として、米軍の新基地建設がもたらすサンゴ礁生態系への影響について発表した。シンポジウム終了後、当日の報告レポートは日本語に加え、英訳もして、国際自然保護連合(IUCN)に加盟する海外団体にも送付した。しばらくすると「辺野古・大浦湾をホープスポットに申請してみないか?」と、ホープスポット事務局からメールが届いた。基調講演をしたフランソワ・シマール氏から話が伝わったのかもしれない。シマール氏は国際自然保護連合(IUCN)の世界海洋極地プログラム副部長(当時)で、海洋保護区や海洋政策の専門家だ。

ホープスポットを日本語に訳すと「希望の海」——。私の心は高鳴った。国際会議でその活動を知ってはいたものの、認定へのハードルは高く二の足を踏んでいた。それが、これだけ科学的な根拠があるのならば申請手続きの相談にのってくれるという。日本自然保護協会は、山から海まで日本の豊かな自然を守る活動を行っており、辺野古・大浦湾については、2002年から市民参加型の海草(うみくさ)調査「ジャングサウオッチ」をはじめ、開発計画の環境影響評価書を精査し、保護を提案してきた。私自身も現職につく前に1998年からサンゴ礁の健健全度を調査する「リーフチェック」実施などの形で関わってきた。この海を保護するには基地建設の中止に加え、大浦湾の自然の大切さを国内外に伝えていくことが重要だ。「世界中のすべてのホープスポットの力を集めれば、国の政治的指導者や政策決定者が無視できないようになり、海の保全の役に立つ力になる」というコンセプトは力強く、認定されれば、地域の人たちにとっても大きな希望になる。私たちは2019年5月、ホープスポット事務局に登録を申請した。日本には登録地がなく、認定されれば「日本初のホープスポット」になることも地域にとって大きな魅力になる。

日本自然保護協会が市民参加で実施してきた辺野古の海草藻場の調査「ジャングサウオッチ」のようす。
日本自然保護協会が市民参加で実施してきた辺野古の海草藻場の調査「ジャングサウオッチ」のようす。

全世界では、2009年から現在までに約120か所の海域がホープスポットとして認定されている。審査はアール博士をはじめ、IUCNの海洋保護区や公海政策の委員など14名の海洋学者や専門家が行っている。審査は年に2回、審査期間は2カ月ほどだ。審査のポイントは、その海域に生息する絶滅危惧種、新種、生物の移動など生物多様性に関する情報。そして文化や観光的な価値、美しさ、教育プロジェクトや科学的研究の有無、政府による保護に関する情報など、多岐にわたる。世界に誇る十分な価値があることに加え、それを一緒に守っていこうとする地域のサポートがあることも重要なポイントだ。

辺野古・大浦湾が評価されたポイントは大きく3点ある。

一つ目に、生物多様性の豊かさが挙げられる。たとえば、大浦湾には「チリビシのアオサンゴ群集」と呼ばれる大きなサンゴの塊がある。長さ50メートル、幅30メートル、高さ12メートルで、記録されているアオサンゴ群集では北半球で最大規模を誇る。ここまで大きな塊りで、遺伝子型が同一なサンゴは世界でも例がなく、とても希少だ。そして大浦湾では沖縄防衛局による環境アセスメント後も、生物の新種や日本初記録種、貴重種の発見がつづいている。

サンゴ礁とはサンゴという動物がつくった遠浅の地形で、日の光がよく届く浅場には「海の中の草原」である海草藻場(うみくさもば)が広がっている。辺野古沖と呼ばれるのは、サンゴ礁の浅い部分。一方、辺野古に隣接する大浦湾は、水深60メートルの場所もある深い海だ。この二つの特徴が、この海の生物多様性の豊かさを支えていると同時に、軍事目的として狙われる理由ともなっている。埋め立てやすい浅場のすぐ隣に、掘削しなくても60メートルの深さがあるため、潜水艦の利用といった軍事的な利点があるのだ。

チリビシのアオサンゴとクマノミ 大浦湾には日本で見られるクマノミ6種全てが棲んでいる。写真:牧志治
チリビシのアオサンゴとクマノミ 大浦湾には日本で見られるクマノミ6種全てが棲んでいる。写真:牧志治

二つ目は、絶滅危惧種のジュゴンが棲んでいること。ジュゴンは人魚のモデルともいわれ、日本の天然記念物である。暖かい海に生息し、沖縄のジュゴンは世界で最も北に棲む「北限のジュゴン」としても知られる。ジュゴンは海草を餌とし、辺野古・大浦湾には沖縄島周辺で最大規模を誇る海草藻場が広がる。海草は、かつては沖縄島にも広く分布していたが、埋め立てなどで次々と生育地が狭まり、いまではここで見られた7種はすべて環境省の絶滅危惧種だ。北限のジュゴンを守るためのさまざまな活動にもかかわらず、ジュゴンがつい最近まで餌場として利用していたこの海域で、いままさに基地建設のための工事が行われている。

辺野古・大浦湾の生物多様性は世界レベル
辺野古・大浦湾の生物多様性は世界レベル
ジュゴンとウミガメ。写真:東恩納琢磨
ジュゴンとウミガメ。写真:東恩納琢磨

辺野古・大浦湾には5,334種もの海の生物が棲んでいる。そのなかにはジュゴンをはじめ、262種の絶滅危惧種が含まれる。この数字だけでは希少性がわかりづらいかもしれない。たとえばハワイの海洋保護区「パパハナウモクアケア海洋国立モニュメント」は、151万キロ平方メートルの広さ(日本の国土面積の約4倍)に7,000種の生物が生息していることを誇りにしている。しかし大浦湾はわずか20キロ平方メートルという小さな場所に5,334種もの生物がいる。この数字を見れば、この海の多様性さと健全さを想像できるだろう。

満月まつりでのフラダンス。写真:関本幸
満月まつりでのフラダンス。写真:関本幸

三つ目は、地元住民をはじめとする多くの人たちがこの海を守りたいと思い、行動に移していることが重要なポイントとして評価された。地域の行事や伝統文化などもある。辺野古の米軍キャンプ・シュワブの対岸にある瀬嵩の集落では、地域の人たちが企画運営する「満月まつり」が20年以上もつづいている。

「わんさか大浦パーク」という道の駅が拠点となって大浦湾の海の豊かさを一生懸命に伝えていることや、自然体験プログラムができて地域を支える「じゅごんの里」のような場所があることも心強い。大浦湾で活動する「ダイビングチームすなっくスナフキン」は、大浦湾の生き物の写真や模型を展示している。教育プロジェクトの有無についても、じゅごんの里で修学旅行や本土の大学のスタディツアーを受け入れたり、わんさか大浦パークでエコツアーも実施している。サンゴ礁の海やジュゴンに関する文化の豊かさも大いに誇れるものだ。

赤点線:辺野古・大浦湾エリア
黄色の範囲:ホープスポット認定エリア
赤点線:辺野古・大浦湾エリア 黄色の範囲:ホープスポット認定エリア

申請時、「登録された際はどのような名称にしたいか?」という項目があった。ジュゴン保護キャンペーンセンターの吉川秀樹氏と相談し、” Henoko-Ōura Coastal Waters” という名称で申請。日本語では「辺野古・大浦湾一帯」と訳した。認定された区域は、辺野古・大浦湾を中心にした名護市天仁屋(てにや)から宜野座村松田までの44.5平方キロメートルの海域である(下図:黄色部分)。当初、辺野古沖と大浦湾(下図:赤線部分)のみを申請していたが、より広い範囲を保護区域にしないと重要な海域を保護できないという科学的見地からのアドバイスをホープスポット事務局からもらった。そこで、サンゴ礁地形の専門家に同じユニットといえる地形の範囲を確認したり、地元の方に地域的なまとまりのある範囲をうかがって、この範囲を割り出すことができた。最終的には周辺沿岸を含めて提出しなおした区域がすべて承認された。

ホープスポットとして認定されたいま、辺野古・大浦湾の自然がもつ大きな価値をもう一度見直し、子どもたちや孫の世代に残していく必要がある。日本政府には、世界に誇るホープスポットとして登録された海を守るため、辺野古新基地建設工事を中止してほしいこと、そして環境アセスメント終了後に明らかになった新種や国内初記録種の発見、埋め立て土砂の採取や移動、軟弱地盤の存在などについて、環境調査と影響評価をもう一度実施してほしいと要望している。

また、自然破壊が進んでいる現場では、工事実施区域の周囲の保護を強化する必要がある。沖縄県知事には、県の権限で可能な保護の網をかけることを要望している。たとえば県の文化財保護法を用いて、チリビシのアオサンゴ群集などの重要な場所を工事の影響から守る。県の鳥獣保護区も県知事の許可があれば設定することができる。そういった「保護の網」を大浦湾のいたるところにかけ、海を工事の影響から守ることが必要だ。

さらに、ホープスポット認定を受けて、ミッションブルーからは、新たなアクションを立ち上げることが期待されていた。そこで、2019年10月末から「辺野古・大浦湾ホープスポット応援署名」を立ち上げた。

海の環境保全は世界的な課題である。辺野古・大浦湾は、生物多様性豊かで世界に誇れる海だが、日本にはほかにも魅力的な海がたくさんある。今回のホープスポット認定を契機に、今後日本各地の海を守る活動でホープスポットが増えてほしいと思う。

認定を受けてのシルヴィア・アール博士からのメッセージ