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古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

倉石 綾子  /  2020年2月10日  /  読み終えるまで8分  /  ワークウェア

長野県諏訪市にある、古材と古道具の店「リビルディングセンタージャパン」。大量生産・大量消費社会の中で生まれた「もったいない」を可視化し、そこに新たな価値を築いていく彼らの取り組みをレポートする。

12月のある日。リビルディングセンタージャパン(以下:リビセン)のスタッフは、諏訪市内から小一時間離れた集落の古い一軒家にいた。江戸時代、中山道の宿場町として栄えた長久保のかつての宿屋。取り壊しが決まったこの家から、まだ使えそうな床材や建具、古道具を引き取るのだ。彼らはこれを「レスキュー」と呼んでいる。レスキューされた資材はリビセンへ運ばれて綺麗に洗われ、新たなユーザーのもとで第二の人生を歩むことになる。

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

割れないように、一枚一枚丁寧に。床板のさね(凸凹の加工)を確認しながら、リビセンのスタッフ、松澤美也さんが古い床板をはがしていく。写真:五十嵐 一晴

リビセンを立ち上げたのは、東野唯史さん、華南子さん夫妻。古材は、東野さんが空間デザイナーとして独立した当初から使っていた素材である。
「20代後半で独立し、店舗のリノベーションなどを請け負うなかで目をつけたのが古材でした。ボロボロの家をリノベーションする時に、古材はいくらでも出てきます。友人をたくさん呼んで、みんなで床材や建材を剥がして、洗って釘を抜いて……。単純に見た目がカッコよかったし、何よりも自分たちにお金がなかったから、現場ですぐに調達できる古材は魅力でした」

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

リビセンを立ち上げた東野さん。現在は、中古物件を環境負荷の低い高性能エコハウスに蘇らせるリノベーションを多く手がけている。写真:五十嵐 一晴

「コスパが良くて見た目もいい」資材の古材に全く別の価値があると気がついたのは、下諏訪の老舗旅館「ますや旅館」のリノベーションを手がけたことがきっかけだった。
「大家さんが長年関わっていた古い建物に強い愛着を持っていらしたのです。梁や柱、床材の材質に詳しくて、建物をとても大事にしていることが僕たちにも伝わってきました。そんな思いを尊重したくて、古材をデザインに取り入れて『マスヤゲストハウス』として蘇らせたのです。歴史ある建物を取り壊すことに対してさみしさや申し訳なさを感じていた大家さんも、その仕上がりをとても喜んでくれました。そのときに、古材というのは元のオーナーさんの思いやストーリーを内包する資源なんだと気づいたのです」

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

建具や床板のほか、古道具や農具をレスキューすることも。この家からは軽トラック1台分の古道具を救い出した。写真:五十嵐 一晴

東野さん自身も、マスヤゲストハウスを手がけたことで諏訪という土地柄に魅せられ、夫婦でここに移り住むことを決めた。このゲストハウスが話題になり、地方のまちづくりに関わる案件も増えてきた。そんななか、地方都市のまちづくりの成功例としてオレゴン州ポートランドへ視察に出かけることになる。古いもの好きの2人がアンティークショップをめぐる感覚で訪れたのが、本国のリビルディングセンターだった。

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

古材にはそれぞれ番号が振ってあり、いつ、どの家からレスキューした資材なのか辿れるようになっている。古材にはストーリーがあるということを実感できるシステムだ。写真:五十嵐 一晴

「日本では古材を扱う店というと郊外に場所にある場合がほとんどですが、リビセンはまちなかにあって、お客さんも現場関係者ではなく若いカップルや親子、老夫婦など一般の人が中心。不用品は捨てるのではなくリサイクルするのが当たりまえ、ものを循環させるシステムが生活に根付いていました。スタッフや年間2,000人以上が関わるとも言われるボランティアの熱意にも胸を打たれました。こんな風にカジュアルに使える古材の居場所があれば、古材をリユースする文化をたくさんの人に広めていけるのではないか、そんな風に思ったのです」

古材や古道具の魅力をカッコよく発信しよう。自分にとっては不要品でも誰かにとっては価値のあるもの、そういった視点を伝えていこう。帰国した2人はリビルディングセンターを日本で実現するために奔走する。
「本国と掛け合って『ReBuilding Center JAPAN』設立の許可をもらい、約1000m2の古い工場をリノベーションして法人を立ち上げたのが2016年のこと。改修にあたっては、500人くらいのボランティアスタッフが関わってくれました。こうした作業に携わることが古材を使うきっかけにもなると思ったので、たとえキャパオーバーになってもボランティアの申し出は絶対に断らないと決めていました」

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

リビセンがレスキューする古材は年間でおよそ60トン。それぞれきれいに洗い、使いやすいサイズにカットするなどの加工を施す。写真:五十嵐 一晴

本国と違うのは、一般の人にふらりと立ち寄ってもらいたかったから、店舗1階にはカフェを設置。廃棄物の削減や資源の有効活用という観点から、ここにペチカストーブを据え、プロダクトの制作過程などで出る古材の端材を燃料として使い切っている。また、施設内で使うエネルギーを自家発電の再生可能エネルギーで賄うべく、建物の屋根に太陽光パネルを設置する準備も進めている。リノベーションについても、現在は住まいの環境負荷を下げることを目的とした断熱改修やエコハウスづくりにも着手しており、ただスタイリッシュに作り変えたいという物件は受けていない、と東野さん。見た目の良さと環境性能が両立しうるということを実証し、中古住宅のレスキューにつなげたいと考えている。

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

レスキューした古材やトタンをリユースした、リビセンのオリジナルアイテム。フレーム、トタンケース、椅子、棚板と、新たな命を吹き込まれたプロダクトが並ぶ様は壮観だ。写真:五十嵐 一晴

「だからといって『古材は環境負荷を下げる、循環する社会に貢献する』、そういうことを声高に訴えたくはない。そういう提案の仕方ではなく、ものとしての美しさをきちんと表現したいんです。『カッコいいテーブルだ』と選んだものが、実は古材をリメイクしたものだった……という方が、ものが循環する仕組みや環境について気軽に親しんでもらえると思いませんか。結局、ものが良ければみんなが手にとってくれるのですから」

こうした取り組みは「より良い社会づくりに貢献する」と評価され、環境省グッドライフアワードの環境地域ブランディング賞を受賞した。地元にもリビセンの取り組みは浸透しており、地域の高齢者からレスキューの問い合わせを受けるまでになった。移住者も少しずつ増えているそうで、リビセンの周囲には個性的な店やスペースが誕生し始めるなど、地域社会の活性化にも一役買っているようだ。

「最近は、全国から『自分の地元にリビセンを設立したい』という問い合わせをいただいています。拠点がないと文化として広がっていかないと思うので、目標は各都道府県に1軒ずつ。こういう文化や視点を少しずつ広めていって、自分たちの手が離れた後も30年、50年と、魅力的な場所として存在し続けていってほしいと願っています」

古材を救う。ものが循環する社会を目指して。

お揃いのワークウエアを着用するリビセンのスタッフたち。写真:五十嵐 一晴

ワークウエアについて

リビセンのスタッフが作業着として着用しているのがワークウエアだ。過酷なフィールドでの作業を想定してデザインされたワークウエアは、農業、林業、漁業といった一次産業従事者はもちろんのこと、ビルダー、クラフトマン、建築業に携わるワーカーのニーズもかなえる仕立て。特に解体作業がメインとなるリビセンのレスキューの現場では、耐久性の高いアイアン・フォージ・ヘンプ・キャンバスで仕立てられたオーバーオールや、ヘンプとオーガニックコットン、リサイクルポリエステル混紡のカバーオールが重宝されている。どちらの製品も膝を二重仕立てとすることで耐久性を高めているのが特徴だ。「ガンガン使ってもへこたれない丈夫な生地なのに、思った以上に軽くて動きやすい。ハンマーやバールなどのツールを収められるフックやポケットも便利」(中嶋皓平さん)。「これまでの作業着は、床板についたままの釘に引っ掛けて穴やほつれができるのが常でした。これは厚手の素材だから、釘を気にせずに作業できます」(松澤美也さん)。左官仕事が多い東野さんが愛用するのはダブルニーパンツ。「膝をついたまま作業することが多いので、大抵、パンツは膝から破れます。これは膝に中敷を入れて補強できるところが便利。脚立の上り下りや立ったりしゃがんだりという動作が多いので、足さばきの良さもポイントです」。

このパンツをきっかけに、環境への負荷をなるべく抑えた方法で栽培された工業用ヘンプのこと、現代のヘンプの生産事情を知ることができたのも良かったという。「使い勝手やデザインの良さ、機能性で選んだものが、実は、環境や社会の問題に向き合って作られた製品だったというストーリーは、僕たちが描く理想像でもあります。リビセンの古材や古道具もこういう風に選んでもらえたら嬉しいですね」(東野さん)。

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