シー・オブ・ミラクルズ(奇跡の海)
「夕食後、丸顔のきばつな年配の大学教授がシャツの胸元からネックレスを引き出した」と語るのは『シー・オブ・ミラクルズ(奇跡の海)』のディレクター、ダン・マロイ。「それはフットボールの形をした、小さな粘土でできたオカリナだった。彼が古くから伝わる日本の抗議の歌を演奏すると告げると、部屋が静まりかえった。彼は目を閉じ、曲を奏ではじめた」
山口県上関町の祝島と長島を囲む海は、カンムリウミスズメやスナメリをはじめとする数々の貴重な絶滅危惧種や、国有の魚介類や海鳥の住処です。そこはまた多くの自然の海岸を有し、過去の内海の雰囲気をいまも保っています。しかしそこに日本の最新の原子力発電所を建設する計画が進行中で、それは2011年の福島原子力発電所の炉心溶融事故以来初となります。建設が行われれば古代からの生活様式は破壊され、この潜在的な世界遺産の地に生息する脆弱な種がさらに脅かされることになります。
“ここは奇跡的な場所です ”
パタゴニアの助成先である〈上関の自然を守る会〉の活動家であり、創始者の高島みどり氏は、発電所建設に反対して35年間闘ってきた漁師や農家とともに、上関の海と自然環境の保護のために闘いつづけています。2017年、パタゴニア日本支社は利害関係者の組織化を手助けし、そのビジョンと発電所阻止のためのさらなる戦略的な計画を後押ししました。また世界中の人びとがこの悲劇的な計画について学び、その阻止の手助けをしてくれるよう、映画『シー・オブ・ミラクルズ』を制作しました。
「この映画製作のために僕らに授けられたプレッシャーで、眠れない夜もあった」とダンは認めます。「日本へと旅立つとき、僕らには35年の奮闘を15分の映画に蒸留するという手強い課題があった。でもその夜の食事の席で、実際すべき仕事が明確になった。僕らに必要だったのは効果的な手段を構築すること。いまだつづく闘いのための」
「グランテッド」映画祭の一環として、私たちは4都市22のパタゴニア直営店にて上映会を開催しました。これまでの成果と前途に待ち受けている課題を浮き彫りにした映画は、参加者の関心を大いに高めました。この仕事のすべてを通じて、原子力発電所の建設を阻止し、この貴重な地域の保護する新たな取り組みを助ける、これまでに見られなかった支援の輪が広まっています。
ダンと『シー・オブ・ミラクルズ』の制作チームにとって、こうした断固たる活動家たちのストーリーを語る機会を与えられたことは光栄でした。「活動家としての生涯と不屈の精神の証人として僕らを受け入れてくれたミドリとトシオ、そして祝島の皆さんに感謝します」
「奇跡の海」を100年後の子供たちに
100年後の子供たちに上関の自然と暮らしをつなぐための拠点である研修宿泊施設「マルゴト」が完成しました。〈上関の自然を守る会〉は上関ネイチャープロジェクトに参加し、この拠点を活用したさまざまな自然体験プログラムを実施していきます。