静から動へ:僕の気持ちと共にある春のトレイル
朝起きる時間はだいたい決まっている。とはいっても時計の針がさす時刻ではない。東の空から日が昇り出したタイミングが起床時間だ。時としては早くても陽が高ければ僕にとって寝坊となる。
ベッドから起き顔を洗い、着替えてコップ一杯の水を飲む。決して自慢ではないが朝食を食べずに一杯の水だけで数時間は走ることができる。そして家から走って3分とかからないホームマウンテンへと出かけるのが出張や遠征のない朝のルーティーンだ。僕の住環境はいつも調子の良いトレイルが近所にあることが条件。現在住居としている丹沢の麓にはトレイルの入り口がいくつもあり、その日の気分や体調、スケジュールによってコースを如何様にでも選べるという、トレイルランナーとしては贅沢な環境だ。トレイルヘッドヘ向かうアスファルトでのジョグは、今日の調子はどうか、どんなトレイルへ行きたいか、など自分への問診時間となり、その結果からこの後どこへどれだけ走るのかが決まる。
トレイルに入るタイミングで雲の隙間から紅い太陽が顔を出しはじめると、今日という一日がスタートしたぞ!という気持ちにさせてくれる。毎朝であっても同じトレイルを走ることに飽きることがない。時刻、天候、気温、そして移り変わる季節によってそれぞれ違うトレイルの表情を五感で感じられるからだ。
トレイルランニングをしていると、季節の変化は、自然の美しさや面白さという点で最も視覚的な魅力であると感じる。特に「春」という季節の移り変わりは自分の気持ち、いわゆる「心」の変化と自然が活きていることの表情、表現の変化にどことなく重なり、僕にとっては特段魅力的な季節だ。
枯れた草木が、春に向けて充電をしているかのように感じる真冬の静寂なトレイル。忙しくなるシーズンを控え、僕は寒さを我慢しながら、気持ちや体力を整理、準備するかのように黙々と走っている。3月半ばから4月になると、走りながら春の息吹を感じられるようになる。どこかグレーに近かった自然の景色の中に小さな緑が現れはじめ、少しずつ緑が増えていく。毎朝のランニングで、日々少しずつ大きくなっていく若葉に対して「おはよう」と挨拶をしている自分がいる。若葉の成長していく姿にこの時期の自分の心の変化と通じるものがある。繁忙期へ向けて気持ちや走り方などを、冬の“静”から春の“動”へと活動的に、大きく変化させていくことが重なるのだ。
高い木々にまで葉が生え揃わない春の森では、朝陽がトレイルにいる自分や路傍に芽生えた小さな緑にまで、柔らかく優しい光をあててくれる瞬間がある。そんな時間は天が自分に挨拶をしてくれているようにも感じられる。冬には静まり返っていたトレイルは森の緑が増えてくるとともに、鳥たちもどこからかやって来て、その鳴き声が森に響きわたり日に日に増えていく。僕は、こんな時の流れが好きだ。春は森やトレイルが一年の中でもっともいきいきとしはじめるタイミングである。僕にとっては春のこんな時間がトレイルを走るのに居心地が良く、楽しくて大切な時間なのだ。
春先の天候や気温は著しく変化するが、トレイルランニングをこの季節に快適に行う為のウェア選びは至ってシンプル。気温によってベースレイヤーを調整して、その上にソフトシェルの「フーディニ・ジャケット」を着込む。耐風性、透湿性を備えたシェルはいつも快適さを提供してくれる。より快適に走るためには脱ぎ着を丁寧に行うこと。歩くのとは違い、運動強度を上げて走ればどうしても汗をかいて汗だくになり過ぎてしまうこともあるし、体をオーバーヒートさせてしまうことにもなる。そうならない為に身体が温まったら脱ぐ、そして冷えてきたらすぐに着る。軽くてコンパクトになるフーディニはショーツのポケットなどに入れてもかさ張らず、出し入れもスムーズ、脱ぎ着が簡単にできるのだ。一年を通じて、トレイルに持っていかないことはないフーディニだが、寒暖の差がある春先には特に使用頻度が高くなるアイテムとなる。
春のトレイルランニングは、走る距離や時間も長くなり、よりアクティブに活動していく季節。トレイルサーチの時間が増え、毎朝のランニングがより長くなり、より楽しく魅力的になるだろう。