オーストラリア高等裁判所が平和的抗議行動を支持
オーストラリア高等裁判所は平和的手段による抗議行動を実施する市民の権利を抑制する法律に対して、譲れない一線を示しました。
先週、高等裁判所はタスマニアン・ワークプレーシズ(抗議行動者からの保護)法令2014を無効にする判決を下しました。森林伐採など、潜在的に有害な事業活動に対する市民の抗議行動の阻止を目的とするもので、判決のリトマス試験となったのは、政府が認定したラポインヤでの伐木搬出に対して平和的な抗議行動を実践していた人びとが逮捕された一件でした。
ラポインヤはオーストラリアのタスマニア州北西部に位置する農村地域で、なだらかに起伏する丘陵には青々とした牧草地、それに耕作地と密林がパッチワークのように広がります。この地方の中心にあったのが野生動植物に満ちた200エーカーあまりのレインフォレスト、ラポインヤ森林で、ユーカリやシダが生い茂り、また世界最大の淡水ザリガニの主要な生息地である、澄みきったメインズ川が流れています。森林はタスマニアデビルやオナガイヌワシなど希少な種や絶滅危惧種の重要な生息地でもありました。
保守的なタスマニア州政府がマレーシアの木材会社タアンの木材加工工場のために森林皆伐を計画している事実を明かしたとき、ラポインヤの住民は良識がこの危機を克服してくれるに違いないことを確信していました。住民はウィル・ホッジマン首相に伐採計画への介入を要求し、また華やかながらも礼儀をわきまえた伐木搬出反対キャンペーンを展開しました。
しかしながら、首相も森林大臣も現地を訪れることはなく、介入もしませんでした。それどころか、圧政的な反抗議行動法が成立し、2016年のはじめの時点では、いよいよ伐木搬出が差し迫りました。
かつてオーストラリア議会のタスマニア代表上院議員(緑の党)を務めた私は、ラポインヤの住民からディナーに招かれ、食事後には才能ある地元の若者が森に捧げる歌をうたうコンサートにも参加させてもらいました。ラポインヤは窮地にありました。タスマニア州都ホバートのよそよそしく無関心な州政権が象徴的な森林の破壊をつづけるなか、抗議者が暴力的になったり伐採重機を攻撃することは決してないものの、もちろん黙っているわけにはいきませんでした。
地元住民は平和的抵抗で挑みました。このような土壇場の状況にあっても世間にラポインヤ森林の真の美しさを理解させることができれば、結果として生じる政治的圧力は、政府に後退を余儀なくさせると考えたのです。
2016年1月には警官のオンパレードとともにブルドーザーとチェーンソーが持ち込まれました。新たな法律は「普通の」環境保護主義者ではなく「過激な」環境保護主義者を対象にしたものであると、ホッジマン首相がタスマニアの住民に請合っていたにもかかわらず、最初に逮捕されたのは2人の子供をもつ母親と1人の祖父でした。この母親とは神経外科の看護師でもあるジェシカ・ホイト、彼女の両親スチュワートとバーバラは森林に隣接する農場をもっています。ジェシカは10代のころ、この森の乗馬道でよく馬を走らせたものでした。2人は告発され、初犯の罰金10,000ドルを科されました。
翌日、伐採の進行に動揺しつつもジェシカは友だちを連れて絶望的な状況の森林に戻りました。樹木とシダのあいだを歩いていたジェシカはふたたび逮捕され、これにより4年間の収監の危機に直面しました。
数日後、政府の伐採活動の残忍さを一般に見せるビデオを撮影するためにラポインヤに行った私も、他の抗議者数人とともに逮捕されました。私は隣接する保護林に立っていました。ブルドーザーはすでに引き返し、チェーンソーの甲高い音と木が倒れる地響きが間近に聞こえました。
平和的抗議行動によって進展を遂げてきた長い歴史をもつ民主主義社会で、公共の破壊に抵抗する理性的な抗議行動を抑圧する法律がいかに不適合であるかは明らかです。さらに私たちの逮捕のあと、オーストラリア中の経験豊かな法律の専門家から、タスマニアン・ワークプレーシズ(抗議行動者からの保護)法令2014は憲法が定める政治的表現の自由に関する黙示の権利に違反する、ということを示す複数のメッセージを受け取り、それはさらに明確になりました。
ホバートの事務弁護士ローランド・ブラウンの紹介を受け、私はジェシカを共同原告に、メルボルンの法廷弁護士ロン・マーケルQCを雇って、高等裁判所にホッジマン法の憲法上の妥当性に異議を申し立てました。私が運営する財団はとくに敗訴した場合の費用に備え、100,000ドル以上の資金を集めました。道徳的な企業であるパタゴニアは最大の資金提供者で、敗訴と経費の支払いに直面していた私たちの心強い支えとなりました。
数か月に及ぶ評議後、高等裁判所が下した判決は、これらの法律はオーストラリア憲法に既得の平和的抗議行動の自由を侵害するというものでした。高等裁判所は言いました。「黙示の自由は憲法が定める国民を代表する責任ある政府の制度の維持に不可欠であることを強く認識する必要がある。黙示の自由は政治的見解の表現の自由を保護し、これには国民による政治的主権の行使に不可欠となる平和的抗議行動が含まれる。それは表現の自由を妨げる立法権の行使の制限として作用する」
ホッジマン政権はその制限を侵害していました。タスマニアには既に危険や損害を与える行動を防ぐ数々の法律があり、また一般市民の森林への利用を保証すると同時に、伐採活動の妨害者を拘束する権限を警察に与える森林管理法令がありました。つまり抑圧的なこの新たな法律はそれらを目的としたものではありませんでした。それはラポインヤでの効果的な環境抗議行動のように一般市民からは支持されるものの、政治家にとっては厄介となる論争を阻害するように仕組まれた法律だったのです。
高等裁判所は平和的抗議行動への抑止効果を指摘しながら、この法律の内容を暴きました。「この法律の複合的影響により、不特定多数の市民による抗議行動が中断し、その効力は時間とともに延長する。抗議者は数日から数か月間にわたって森林伐採周辺地へ戻ることを阻止される。この間、抗議者が保護を求める森林の伐採活動は継続し、抗議者の声は無視される」と。
環境破壊は世界中で大幅かつ急速に進んでいます。原生林のように再生不可能な自然資源を搾取して利益を得る企業は、一般市民の高まる監視や反感に直面します。生態系を破壊するための議論では勝ち目がありません。だから環境保護者を打ちのめすという代替手段を使っているのです。世界各地で、毎年多数の環境保護主義者が暴利を貪る人びとに殺されています。しかしオーストラリアは平和的民主国家であるため、企業の黒幕は抗議行動を無駄な試みにさせるよう、脆弱な政府に働きかける方法を選んでいるのです。
オーストラリア高等裁判所の判決は譲れない一線を示しました。これは他の政権が環境破壊を擁護する法律を通過させようとする際の新たな基準となるでしょう。さらには、あらゆる正当な大義のために立ち上がる人びとの権利を支えることになるでしょう。
クイーンズランドでは珊瑚を破壊する巨大なアダニ炭鉱案に利権を与えようとしている政府に、既存の法律よりもさらに抑圧的な反抗議行動法の成立を求める声が上がっています。これらを要求している極右派は民主主義のためのこの判決を読むべきです。
ラポインヤ森林は伐採されましたが、それは破壊者にとって割に合わない勝利であることが証明されました。ラポインヤの一握りの人たちによる平和的ながらも心からの抵抗は、すべてのオーストラリア人の平和的抗議行動の権利を支持する高等裁判所の判決となったのです。
我々の権利を守ろう
高等裁判所の判決にもかかわらず、タスマニア政府はこの法律を擁護しつづけ、議会での法律の撤回を渋っています。タスマニアのターカイン地方をはじめとする独特な生態系は、いまだ破壊の危機に直面しています。平和的抗議行動および環境を守る権利を奪うこれらの法律をともに退けようではありませんか。