私たちが作る最も美しい製品
パタゴニアでは、最も美しい製品を真にデザインするのは「着る人」だと考えています。裂け目や染みやテープの継ぎ当ては、まさに着る人とギアの絆の証拠です。パタゴニアの「WornWear」修理プログラムは、愛すべきウェアをより長く現役で使いつづけるようにするためのもので、最終的に着用できなくなったパタゴニア製品については簡単にリサイクルできる方法を提供しています。
長年のパタゴニアのアンバサダーであり、写真家でもあるマイキー・シェイファーは、毎年数か月間を南米のパタゴニアで過ごします。最近彼が持ち帰ったWorn Wear ストーリーは、私たちのお気に入りのひとつとなりました。
「チャルテンに行くときは、着ていないジャケットやちょっと着古したジャケットを持って行くことがよくある。ここアメリカではギアはごく簡単にゲットできるけど、あそこではクライマーたちは必要なものを入手するのが大変。だからウェアを循環させつづけるにはいい方法なんだ。
クライミングシーズン終盤、ドアをノックして現れたのは、そのときはよく知らなかったマーティンだった。ボロボロのジャケットを着ていて、本当にみすぼらしい身なり。あれほど着古したウェアはまず見ない、とくにアメリカではね。そこまで着る人なんてもういないから。でもここでは、この好青年が『ジャケットを売ってくれるかもしれないって聞いたんですけど……』と尋ねている。僕は彼と彼のジャケットを見つめたまま、呆気に取られていた。マーティンの話によれば、このジャケットを着てフィッツロイに登り、猛烈な寒さに凍えたと。肘は穴だらけで、とにかくひどいジャケットなんだ。でも僕は、それでもがんばりつづけているこの若いクライマーのことが気に入った。だからこう提案した。『そうか、ならこうするのはどうかな。これと交換しよう』
マーティンは最初、ピンとこなかったようだ。僕が正気じゃないとでも思ったんだろうね。でも僕はマーティンのジャケットをアメリカに持ち帰りたかった。そして皆に見せたかった。僕たちが本来何のためにギアを作っているのかを。修理ができるかどうかは分からなかった。でもジャケットの山の中から好きなものを選ぶように言うと、マーティンは『まさか、本当にジャケットをくれるんですか?』と言って僕に抱きつき、『ありがとうございます!』と叫んだ。彼はダウン・フーディか何かを選び、そして僕は彼のジャケットを持ち帰った。
その後アメリカに戻った僕は、WornWear のトラックがスミス・ロックにやって来たときに、マーティンのジャケットを持って行った。それを修理の達人のひとり、キャシー・アベレットに見せると『すごい、こんなのはじめて見たわ』と驚いた。これがとてつもなく特別なジャケットだということが分かった彼女は、こう言った。『やってみる。修理してみせるわ』
その秋、僕は修理されたそのジャケットを受け取った。素晴らしい出来だった。キャシーはおんぼろだったジャケットを見事に蘇らせていた。背中にはあつらえの刺繍が施され、内側には『愛を込めて』と入っている。僕はジャケットをバッグに詰めると、マーティンにメールや連絡もせず、チャルテンに持ち帰った。まもなくマーティンに出くわすと、「よう、ちょっと来いよ。渡したいものがあるんだ」と言った。僕がバッグから例のジャケットを取り出すと、彼は驚きのあまり言葉を失い、大興奮して、また僕に抱きついた。
若いときには、たった1 枚のジャケットが何らかの意味をもつことがある。そしてその意味は欲しいものが何でも買えるときとは比べものにならない。フィッツロイをはじめとする過激なルートを登ったマーティンのそのジャケットには、格別な感情的な価値がある。彼は修理されたジャケットを着ると、チャルテンの町を自慢げに歩いた。手首が袖からはみ出ていたりして、じつはちょっと小さいのだけど、それでもこれは最高傑作だ。この旅で彼を見かけるたびに、マーティンはそのジャケットを着ていた。皆に見せながら、とても嬉しそうに。
こんなことができるのは楽しい体験だった。すべてがぐるっとひと回りして輪を結ぶのは、素晴らしい」
このストーリーの初出はパタゴニアの2016年ウィンターカタログです。本カタログはパタゴニア直営店で無料配布中。こちらからご請求もいただけます。