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脱原発をめざす首長の輪:第四首「自治体からのエネルギー転換」

保坂 展人  /  2013年11月25日  /  読み終えるまで10分  /  アクティビズム
脱原発をめざす首長の輪:第四首「自治体からのエネルギー転換」

レジリエンスは自治体から

今年、世田谷区は今後20年間の基本的な指針として基本構想を決定しました。この基本構想は、東日本大震災と原子力発電所の事故を受けて、災害への備えや地域社会のあり方を根本的に見直すものとなりました。基本構想には9つのビジョンを定めていますが、その中でも「災害に強く復元力のあるまち」、「環境に配慮したまち」を作る方向性を打ち出しています。エネルギーの分野では原子力を中心とした大規模集中型のシステムが、いざという時に復元力の弱い硬直的なシステムであることが明らかになりました。しなやかな復元力(レジリエンス)を生み出すためには、小規模分散型の自立的なシステムの構築が不可欠です。こうしたシステムを形成できるのは国や電力会社ではなく、消費者である区民に近い自治体こそが主体となるべきです。区長就任以来、私はこうした観点のもとさまざまな施策に取り組んできました。

電力の世界はブラックボックス

東日本大震災の後、夏の電力危機を回避するために政府は電力制限令を発令し、大規模使用者等への電力削減を義務付けました。私は区民がどのくらい節電したらいいのか理解するためには、電力の利用状況を正確に理解する必要があると考え、東京電力にデータの公開を求めました。ところが、そのようなデータはないと断られました。そんなはずはありません。東京電力は、「日本は世界でも有数の、電圧が安定した国である」と宣伝しています。実際に日々、電力の需要と供給を均衡させているからこそ、安定が得られているはずです。データがないということは俄かに信じられません。仮に行政区ごとのデータでなくとも、それに近い送電網に沿ったデータはあるはずです。散々交渉した挙句に開示されたデータは、前日の東京23区の電力使用量でした。1日遅れのデータではありましたが、このデータでやっと私たちは夏の節電にどれだけ取り組めばいいのか理解できるようになりました。同時に停電の心配があるから原発再稼働を急ぐべきだという論の偽りもはっきりしました。データからすると、節電の定着により東京電力管内の電力が不足することは考えにくい状況でした。

エネルギーの地産地消~屋根が発電する

自立したエネルギーによる復元力の確立を目指し、まずエネルギーの地産地消に取り組みました。地産といっても世田谷区は住宅都市で大量の電気を生み出す環境はありません。しかしたくさんの住宅があるということは、それだけの屋根があるということです。この屋根を使った発電に大勢で取り組めば分散型の発電所がたくさん出来上がり、巨大な送電網を使って電気を送る必要はなくなります。世田谷区には㈱世田谷サービス公社という地方公社があります。ここが事業主体となって、一気に太陽光発電を取り組むことにしました。メーカーを公募し、安価/安全/安心に提供できるプロジェクトを立ち上げたのです。この事業は屋根を発電所にということで、世田谷ヤネルギーと命名されました。ちょうど2013年7月から再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まることもあり、大変な反響が寄せられました。実質2か月半という短い期間でしたが、2000件の相談が寄せられ600件もの申し込みがありました。メーカーの担当者も前例のないことだと話していました。ただこの取り組みで実際に設置した家は200件ほどでした。耐震性や日当たり等、さまざまな条件があって設置に至らないケースも多くあり、希望してもできない方々への対応が必要となりました。そこで次のことを考えました。

発電だけでないさまざまな工夫

住宅での太陽光発電は都市部ではさまざまな制約があります。気持ちはあっても発電できない方々には省エネを推進することを勧めています。省エネをして電気を使わないことも、電気を生み出すことにつながります。区内の市民団体の中ではこれを「省エネ発電所」といっている方々もいます。区ではこうした取り組みを支援するために省エネリフォームを助成する制度を始めました。また同時に、地元の建築業者のための省エネリフォームの講習会を開催しました。多数の業者の皆さんが参加、関心の高さが伺えます。

ヤネルギーからベラルギーへ

ヤネルギーは戸建住宅の取り組みでしたが、この事業の中でたくさんの方から「私は集合住宅に住んでいるので屋根を持っていない。それでも発電に参加したい」というお話がありました。確かに世田谷区民は戸建住宅にお住いの方よりも集合住宅にお住いの方のほうが多いのです。そこで「世田谷区自然エネルギー活用促進地域フォーラム」という、区内の自然エネルギーを広げるために事業者、生協、大学等の皆さんに集まっていただいて経験交流をする場で、「集合住宅でできる発電方法はないか、夏になるとベランダにすだれを出している家が多いがあれで発電できないか」と尋ねてみました。大学の研究者の方やベンチャー企業の方から「それは面白い、試してみよう」という話になり、試作品を作ってもらっています。市民団体や生協の皆さんからも「いい製品ができたら普及に協力したい」というお話をいただいています。ヤネルギーからベラルギー(ベランダエネルギー)への進化です。

自然エネルギーと電力自由化

自然エネルギーの利用を促進するうえでは、電力市場の自由化が不可欠と考えています。地域独占の電力事業者が国や経済界と密室でエネルギーミックスを決める現在の制度のもとでは、自然エネルギーへの転換は望めません。その一方、消費者の中ではエネルギーの質を選びたいという考えが確実に広がっています。世田谷区内で開催された電力自由化についてのシンポジウムで生協が発表したアンケート結果では、「多少高くても自然エネルギーを購入したい」という方が43%もいました。こうした消費者の考えが供給側に反映しないのは、電力市場が独占状態で消費者に選択の自由がないためです。欧米のようにさまざまな電力事業者がサービスや電力の質を競うようになれば、必ず自然エネルギーの需要が高まると思います。

PPSからの電力購入

現在の電気事業法では50KW以上を高圧受電しているマンションや事業所では、地域の電力会社とは別のPPS(新電力)から電力を購入できます。しかしそのことはほとんど知られておらず、そのシェアはわずか3.5%ほどです。世田谷区は平成24年度に111か所の施設の電力の供給元を入札し、PPSに切り替えました(今年度は163施設に拡大しました)。   このことが大きく報道され、初めてPPSの存在を知ったという方も多かったようです。世田谷区の取り組みが話題になると、PPSから電力を購入したいという引き合いがずいぶん増えたようです。しかし現状では、PPSの供給能力が限られていることに加えて、電力会社の送電網を使用する際の制約が大きく、シェアが拡大できません。電力自由化の第3段階である発送電の分離が必要です。

自然エネルギー100%の島

私はこの夏、自然エネルギーの最先端地域として知られるデンマークのロラン島を訪ねました。ここでは島で使う電力の5倍を風車で発電し、余剰分はコペンハーゲンや国境を越えてドイツなどに送っています。風力に加えてバイオ燃料の研究も盛んで、藻や家畜の糞尿からエネルギーを取り出す仕組みも実験されていました。この島が成功している理由に、脱原発/脱化石燃料に向けた市民の強い意志とそれを受けた政治のリーダーシップがあります。大きな方向性が決まったため、研究者や企業が集まってプロジェクトを立ち上げています。同時にヨーロッパ全体が公共的な送電インフラを持ち、国境を越えて電力を販売できることも大きいです。さらにデンマークをはじめとする北欧の各国では、豊富な自然エネルギーを水素に変えて蓄電する仕組みについても熱心に研究しています。ロラン島でも水素供給のインフラを整える実証実験を進めており、近い将来3000世帯をつなぐ水素インフラを構築するとのことです。自然エネルギーから水素を作るR水素は、生成から消費までの全工程でCO2をいっさい出さない究極の自然エネルギーです。こうしたロラン島を先頭とする北欧の取り組みをみると、日本でも正しいリーダーシップがあればまだまだやれることはあると考えています。

エネルギーでの地域間連携

世田谷区は自然エネルギーをたくさん生み出す適地とは言えません。しかしそれを望んでいる区民はたくさんいます。そこで、地方の条件のいいところで発電し、その電気を世田谷区に届けるということも考えています。まずは、区が神奈川県三浦市に保有していた健康学園の跡地に、出力420kwの太陽光発電所を設立しました。当面、固定価格買取制度により売電しますが、発送電の分離が進めば区で買い戻すことも考えられます。また世田谷区には長年交流を培ってきた交流都市が37あります。この中には自然エネルギーの開発に熱心な自治体も多くあります。こうした交流都市の首長と懇談する機会があり、大消費地の世田谷区が協力して地方都市の自然エネルギーを支援するプロジェクトを呼びかけると、大きな反響がありました。エネルギーの地域間連携です。現在では市民出資による発電所建設もある程度進んできましたが、まだまだ規制も多く、困難も多いようです。都市の自治体が協力することでこうした取り組みが広がることが期待できます。

スタンスから行動へ

以上、区長就任以来の取り組みを振り返ってみました。今年7月、ロラン島の市議会議員のクリステンセン氏をお招きし、シンポジウムを開きました。氏はここで、「話しているだけでは始まらない。実際にやって、はじめて新しいことが学べる」と強調されました。エネルギー転換は話しているだけでは始まりません。色々な可能性にチャレンジし、少しずつでも変えていくことが必要です。

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世田谷区長「保坂のぶと」のサイトはこちらから。また、朝日新聞DIGITALのウェブマガジン「太陽のまちから」にも毎週連載中。

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