解決策シリーズ・パート1:川の中の赤ん坊
昔々川沿いの村で、ある女性がショッキングな出来事を目にしました。赤ん坊が川で溺れ、大声で泣きじゃくりながら下流に流されていました。彼女はすぐに助けに走り、村の境で川が滝になる寸前に赤ん坊を救い出しました。次の日、2児の赤ん坊が川で溺れていました。その翌日は3児、そして次は4児。女性は隣人の助けを借りて、全員を救いました。赤ん坊が流されつづけると村人たちは結束し、24時間の救援体制を整えました。それでも赤ん坊は流されてきました。そこで地元民は精密なアラーム装置と安全網を川に整備しました。けれども依然として赤ん坊の救援作業に明け暮れていました。
ついに村人たちは賢者に相談に行きました。賢者の解決策はこうでした。「上流に行き、誰が赤ん坊を川に捨てているのか見てみよう。そこで捨てられるのが防げれば、下流で救助する必要はないのだから」
ここ現実の世界では、汚染されていない環境や公平な社会を重要だと思い、変革のために働こうと考える人には事欠きません。私たちはリサイクルし、プリウスを運転したり、自転車に乗ったりします。インターネット上のキャンペーンでは「いいね」をクリックし、嘆願書に署名もします。環境保護団体、人権組織、労働組合に献金し、企業が汚染を削減し、より安全な化学薬品を使い、フェアトレードのポリシーを開示させる法律を通過させます。
これらはすべて価値があり、褒めるべき行いです。しかし、それらは下流で赤ん坊を助けていることと同じです。私たちの惑星を駄目にし、健康に害を与え、コミュニティを脅かす、慢性の複雑かつ絡まり合う問題の悪化速度をただ遅らせるだけです。それにとどまらない解決策のためには上流に行き、この危機の真の源を探さなければなりません。
これらの根源となる原因とは何でしょうか。端的に言えば、それはゲームの規則にあります。世界を動かす経済的、社会的、政治的前提です。既存の規則では、このゲームはより多くの人により多くの物を買ってもらうことがゴールです。私たちはそれを成長と呼びます。世界中のエコノミストと政府のほとんどが社会の健康と前進をそれによって測っています。国民総生産、つまり売買されたモノとサービスの総計です。誰がそれに反対しますか?成長はよいことです。そうですよね?
それは成長しているのが何かによります。刑務所と学校のどちらに成長してほしいですか?銃器と医療は?流出する原油をクリーンアップするテクノロジーと、安全な再生可能エネルギーだったらどちらでしょう?
国民総生産の聖杯では、人生を向上させるものの成長と悪化させるものの成長を区別しません。これは問題です。なぜならこのやり方は、人びとと惑星を駄目にする行いに報酬を与えることになるからです。
このシステムに起因する問題を下流で解決するために必死になるのではなく、上流へ行ってこのゲームの規則を変えようではありませんか。それは、国民総生産を売買だけでなく、環境の健全さや子供たちの幸福度、地元社会の力などを含んだ違う測定方法に取り替えることからはじめられます。これには「真の進歩指標」やヒマラヤのブータン王国の「国民総幸福量」など多くの前例があります。
私がちょっとオタクになるのを我慢してください。どんな問題にも最低2種類の解決策があります。取引型と変形型です。取引型の解決策はいくつかの問題に対処してもその問題につながる根本的なシステムは変えない努力です。ガソリンの鉛添加の禁止やオーガニックコットンへの移行など、取引型の解決策のいくつかは大きな改善をもたらしますが、ゲームの規則は変えません。変形型の解決策は経済活動の代わりに国民の幸福度を測るなど、会社のビジネスの方法や政府の方針の設定、地域社会が機能する方法など、システム全体にわたって根本的な変化をもたらします。変形型の解決策の素晴らしいところは、いったん達成してしまえば、下流の多くの問題が消滅してしまうことです。
私たちが改善できることのリストには終わりがありません。それはより安全な化学薬品、より効率的な車、より高い最低賃金などであり、私たちはこれらの課題のいかなる向上にも励まされます。しかし安全な製品や、しあわせな人びとや健全な環境のために実行可能な解決策を容易に履行するための、より大きなシステムを変えることにも取り組まないかぎり、それは十分ではないのです。バーモント州の法律学の教授ガス・スペスが言うように、直面する複数の問題にうまく対処するためには、改革のための努力は最低でも同等の努力と調和しなければなりません。そしてその努力とは、「人と惑星のために継続してよい結果をもたらす、新しいオペレーティング・システムを作る」というものです。
これから2年間、「The Story of Stuff Project」プロジェクトは、解決のためのアイデアをパタゴニアのコミュニティと分かち合っていきます。そして最も変革が必要とされる3つの分野――地域社会、企業、政府――での解決策を考察します。これは対話です。ですから皆様の意見やアイデア、ご感想などをお聞かせください。どんな解決策がいちばんワクワクしますか?