MEET THE CREW: フレッチャー・シュイナード・デザインズ(FCD)~フレッチャー・シュイナード
いつも思っていた。波に乗るにはかぎりなくたくさんの方法があって、それがサーフィンが最高のスポーツである理由のひとつなんじゃないかと。同じ波はふたつとなくて、最近まで同じサーフボードというのもなかった。毎日同じスポットでサーフィンをしても、その体験は毎回完全に異なって、さらにボードを変えればまったく別のスポーツのようにさえ感じる。
手作りのサーフボードも、同じものを手に入れることはできない。同じものを作ることは不可能だから。だからあまり良くない質のものをつかんでしまうリスクもあるが、奇跡のような素晴らしいボードにめぐり会う可能性もある。その奇跡とは、ボードを手にした瞬間の「これだ」という感覚。ボードに乗せた足は自然に正しい位置へと導かれて、そのボードは波のスイートスポットにひとりでに向かっていく・・・まるで体の一部になったかのように。
でも大量生産されたサーフボードの場合、奇跡にめぐり会うチャンスはほとんどないと言っていい。海外で型抜きされたボードは、もともとはシェイパーが最大限の努力を払ってシェイプしたものかもしれないが、その製造工程で多くの要素が失われてしまう。すばやく仕上げられたボードは見た目も質も低く、製造者は優れた職人であったとしても、サーフィンをする人間ではないだろう。あるいは最低賃金以下の報酬で働かされている中国やタイの労働者かもしれない。こうした経験のない作業者が、コンピューター操作の機械で作られたブランクスを流れ作業で削るだけ・・・。そんなボードは概して粗悪で、なかにはまあまあのものもあるが、一流の型抜きボードというのはまず見つけられないだろう。
一方、質の高い手作りのサーフボードはまったく別の話である。サーフィンを熟知した人たちが製造工程のあらゆる段階を担い、長年にわたって無数のボードの製造とテストを繰り返すシェイパーは、何が効果的で何が不要かを自然に習得している。サーフボードのデザインに関するありとあらゆる情報を読みあさって研究し、優れた達人と機会あるごとに話をしては知識を得る彼らは、あちこちに施す微妙な調整がボードの出来を大きく左右することを知っている。だから、例えばレールの適度な押さえ具合によってボードがチューブで巻き上げられたり、あるいは不適当な位置でエッジをとられたりするのを防ぐことができる。そうした微調整がサーフボードに活力と個性を与える。シェイパーもラミネーターもサンダーも、彼らがみずから体得した流体力学的原理の知識をサーフボードの製造に反映することができる。なぜなら、彼ら自身がサーフィンをするからだ。
サーフィンを愛する人にとって、そしてもしあなたがサーフィンをするなら、サーフボードは何よりも大切な道具であるはずだ。理論的にいえばウェットスーツやリーシュ、あるいは水着などなくても、サーフィンをすることはできる。でもサーフボードだけは絶対に必要だ。自分のライフスタイルに重要な役割を果たす道具とは親密な関係でいるべきではないだろうか。サーフボードが相棒だとすれば、信頼のおける、そしてその体験と精神に刺激を与えてくれるような個性豊かな相棒をもちたいと思いませんか?
―フレッチャー・シュイナード