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北アルプスの象徴、多くの人が憧れる槍ヶ岳。写真:高橋庄太郎
北アルプスの象徴、多くの人が憧れる槍ヶ岳。写真:高橋庄太郎

日本の山をテント泊山行する

By 高橋 庄太郎   |   2012/05/31 2012年5月31日
北アルプスの象徴、多くの人が憧れる槍ヶ岳。写真:高橋庄太郎
北アルプスの象徴、多くの人が憧れる槍ヶ岳。写真:高橋庄太郎

アウトドアライターを職業とする僕にとって、仕事でもあり、趣味でもあることが、昔の山岳地図や地形図の収集だ。

昔と今の地図を見比べると、さまざまなことがわかる。たとえば、以前のトレイルが廃道になっていたり、反対に昔はなにもなかった場所に新道が拓かれていたりという登山道の盛衰、現在ではダムの底になっている川底や拠点となるターミナルの場所に小さな集落があったりという変遷など、山の歴史と文化が新旧の地図のなかに秘められているのである。

そんな山中の移り変わりのなか、僕がとくに注目し、チェックしているのがテント場の位置だ。昔は野営地として記されていたポイントがなくなっている場合が多く、以前はもっといろいろな場所でテントを張って、山のなかを自由に旅することができただろうと感じる。なかには中央アルプスのように、ほとんどの野営地が廃止されてしまい、テント泊での長い山歩きが不可能な山域までできてしまっている。

しかし、北アルプスや南アルプス、奥秩父などは、いまでもテント場が充実している。テント場とテント場のあいだが1日で移動できる範囲内にあり、長距離の登山も可能だ。衣(着替えやレインウェアなど)、食(朝夕の食事や行動食など)、住(テントや寝袋など)をバックパックに収納して、すべて自分で担ぐことさえできれば、小屋のお世話にはならずとも自立した山の旅ができるのである。なかでも、その気になれば2週間にもわたる山旅が可能なほど広大な北アルプスを、テント泊を愛する僕はもっとも愛している。標高3190メートルの奥穂高岳から海抜0メートルの親不知まで、多彩な表情をもっている日本一の山脈だ。

ところで、日本の山の登山道の大半は、山脈の稜線や尾根上につけられている。しかしアメリカやヨーロッパ、ニュージーランドなどの海外のトレイルの多くは稜線ではなく、谷を歩き、峠を越えて延びており、、山頂は見るだけで通りすぎるルートになっていることが珍しくない。日本の登山道とはかなりイメージが異なっている。つまり、いくつもの山頂を連ねて稜線を延々と歩いていく、日本ではポピュラーな「縦走」という山歩きの形式は、我が国特有のスタイルといえるのだ。狭い国土に急峻な山々が連なり、降水量も多い日本では、崩れやすく増水しやすい谷よりも、稜線や尾根に登山道をつけたほうが安全で歩きやすいからだろう。事実、昔の地図にあって今の地図からはなくなった廃道は、谷間の道ばかりなのだ。

日本の山の稜線につけられた登山道は景色がすばらしい。とくに北アルプスでは登山道が標高2000~3000メートル以上で、森林限界を越えている場所が多く、周囲に視界をさえぎる木々がない。驚くべきことに、南北に30~40キロメートルも延々とつながる大稜線を一目で眺められるビューポイントすらあるほどだ。それだけでも歩けば1週間程度はかかり、さらに視界に入らない山域まで含めれば2週間以上の山旅すら可能。北アルプスの登山道は海外のトレイルに負けない規模なのである。

衣食住をバックパックに収納し、山のなかを自由に旅する。北海道/知床
衣食住をバックパックに収納し、山のなかを自由に旅する。北海道/知床

ただし、好天時は最高の景色を楽しめる稜線の道も、ひとたび悪天になればコンディションが一気に厳しくなる。とくに森林限界を越えた高所は吹きさらしになり、暴風とともに雨が上からだけではなく前後左右からも吹きつけてくる。森のなかであれば風雨を避けられる場所を探すこともできるが、稜線上の登山道では非常にむずかしい。周囲を海に囲まれている日本では大陸の山ほど天気予報が当てにならず、突然の天候悪化に見舞われがちだ。雨に濡れた体が強風にさらされると夏でも低体温症になってしまい、凍死の恐れすら生じる。だからこそ、日本の山を歩くためには、海外以上に雨対策が重要になる。レインウェアの重要性が繰り返し説かれるのは、濡れると不快だからということもあるが、なによりも命の危険を守るためなのだ。

レインウェアは防水のための衣類であって、保温の機能はない。だが体を濡らさず、そして強風を直接体に当てさせないことにより、体温の低下を防いでくれる。その意味では防寒着の側面もあると考えられるだろう。体温さえ守っていれば、悪天候のなかでも最悪の事態は避けられる。

僕は1年のうちの1/3以上は山へ行っていることもあり、山中の最重要ウェアともいうべきレインウェアを何着か着まわしている。レイン・シャドー・ジャケットは以前からのお気に入りで、今年はスーパー・セル・ジャケットを買い足し、ハードシェルの範疇に入るスーパー・アルパイン・ジャケットも、場合によってはレインウェアとして着用している。他のメーカーのレインウェアでは省略されやすい換気用のベンチレーションがしっかりと設けられているのが、僕の好みに合っている。

この数年だけを振り返ってみても、僕は強雨に見舞われた南アルプス・荒川三山、北海道・知床半島などでレインウェアのありがたさを思い知った。昨年の北アルプス・白馬三山も雨中の稜線縦走になってしまったが、なんとか目的地までたどりつくことができた。

南アルプス/荒川三山。曇天にイエローが映える
南アルプス/荒川三山。曇天にイエローが映える
原始の雰囲気が残る北海道/知床の山中にて
原始の雰囲気が残る北海道/知床の山中にて
濃霧と雨のなか、北アルプス/白馬三山を行く
濃霧と雨のなか、北アルプス/白馬三山を行く

そして、レインウェアを脱いでテントに入った瞬間の安堵感。悪天の際、テントが山に滞在するときに自分で持ち運べる「安全地帯」だとすれば、レインウェアは山で行動するときに自分で持ち運べる「安全着」なのである。そんな「安全」とともに、僕はまたテントを入れたバックパックを背負い、日本の山を旅する。

レインウェアを脱ぎ、テント内で寛ぐ。北アルプス/白馬三山
レインウェアを脱ぎ、テント内で寛ぐ。北アルプス/白馬三山

写真:
北アルプス/白馬三山:撮影/大森千歳(『PEAKS』本年度掲載予定)
南アルプス/荒川三山:撮影/加戸昭太郎(『山と渓谷』2011年8月号)
北海道/知床:撮影/加戸昭太郎(『PEAKS』2011年7月号)

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ひたすらに山、海、川に行く高橋庄太郎の2冊目の書籍 『北アルプス テントを背中に山の旅へ』 に関連して、パタゴニア仙台、神田、渋谷の各ストアでトークイベントを開催します。詳細はこちらをご覧ください。お問い合わせ/ご予約は各ストアまでお願いします。また6月1日~30日まで、神田ストアでは高橋庄太郎著『僕のお勧め、山の本10選』の展示も行います。

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